プラスチック製品の塗装・加飾を手がけるエフジェイ真空は、この数年黒字決算を継続し、限界利益率も40%超と同業者に比べて高い水準を推移しているが、かつては赤字決算が連続し、経営危機に直面していた。
いかにして危機から脱却したのか。目覚ましい勢いで飛躍を遂げた同社の取り組みをレポートする。
充実した設備で高付加価値の塗装を実現
大阪府八尾市を東西に流れる第二寝屋川のほど近くにエフジェイ真空の工場がある。同社が手がけているのはプラスチック製品の塗装と加飾。アイライナー、美顔器、シャンプーボトル、水洗トイレや配膳用ロボットの人感センサーなど幅広い製品の塗装を請け負っている。
「当社の強みは高級感を醸し出す塗装技術と、厳格な品質管理体制です」
藤井彰之社長が説明するように、同社では塗装面のつや出しやグラデーション塗装、表面に細かい模様をつける石目調塗装、抗菌・帯電防止といった機能を強化するための塗装など、他社では容易にまねできない、付加価値の高い塗装技術を確立している。
これに加えて、PDCAサイクルを軸とした精緻な品質管理体制を構築。製品ごとに作業計画と手順書を整備し、作業が予定どおりに進んでいるか、取引先の要望どおりに仕上がっているかなどを日々検証しながら作業を進めている。こうした取り組みによって納期の完全順守と低い不良品率を実現。特に不良品率は1%前後と、同業他社と比較しても圧倒的に低い数字を残している。
これらの取り組みには、藤井社長が塗装業界で長年培ってきた経験が余すところなく反映されている。大阪府内の塗装業2社に勤務し、加工や材料管理など多岐にわたる業務に携わった後、愛知県にある塗装会社の経営に参画。社員の技術指導に努め、取引先や塗装製品の拡大を実現するなど、業績アップに貢献した。そして、2016年には、これまで職業生活で得た知恵やノウハウを武器に、自ら事業を立ち上げたのである。
創業直後から税務顧問に就いている西田幸治税理士も同社の塗装技術を高く評価しており、「エフジェイ真空さんの製品は見た目の高級感、手触り感などすべてにおいてクオリティーが高く、他社のサンプルと比べると一目瞭然です。塗装業界の人間ではない私が一目見てもわかるぐらい、エフジェイ真空さんの技術力は群を抜いています」と賛辞を惜しまない。
実際に、ある化粧品メーカーでは複数の塗装業者と取引していたが、エフジェイ真空の加工技術と品質管理体制を高く評価し、これらの取引を打ち切って塗装業者を同社に一本化したというからすごい。「塗装技術と品質管理体制が評価されたことをきっかけに新アイテムの塗装案件を受注したり、新しい取引先の紹介につながったりと良いサイクルが生まれています」と藤井社長は補足する。
西田幸治顧問税理士
藤井彰之社長
色鮮やかなグラデーション塗装が強みの一つ
トイレットペーパーホルダーの塗装も手がける
事業の好調ぶりは数字にも表れている。20年9月期に初めて売上高が1億円を突破すると、限界利益率30%超、経常利益率16・9%とこちらも創業以来初となる黒字決算を達成。直近(23年9月期)の売上高は1億2000万円と相変わらず好業績を維持しており、限界利益率は48%と5割に迫る勢いだ。
このように高い限界利益率を誇る秘訣はどこにあるのだろうか。
藤井社長は言う。
「当社では『ムリ』『ムダ』『ムラ』を、付加価値を生まない〝3M〟と定義し、3Mを発生させないための取り組みを行っています。例えば、材料や人件費を無駄に使わないよう、作業に必要な塗料の量や人員などを製品ごとに定めたり、作業のロスや不良品を出さないための仕組みを標準化したりして、3Mの削減を徹底していることが、高い限界利益率の維持に結びついていると思います」
さらに、同社では西田税理士の指導のもと、経営計画を毎年策定しているほか、《365日変動損益計算書》をもとに売り上げや利益目標に対する進捗を毎月の面談で確認している。「最新業績を毎月確認し、そのつど打ち手をタイムリーに施してきました。この取り組みが奏功し、20年以降、毎期目標を上回る売上高、限界利益を上げています」と西田税理士が話すように、顧問税理士のフォローアップも限界利益率の向上に大きく貢献しているようだ。
ちなみに、現在は絹川太朗監査担当が毎月訪問し、社長や経理担当で社長夫人の香織さんと面談している。「社長が特に注目しているのは限界利益の動向です。最近はありとあらゆるコストが上昇傾向にあるので、《365日変動損益計算書》をもとに計画や前年同期と比較しながら、限界利益を高めるための対策を打ち合わせています」と絹川氏は話す。
今や飛ぶ鳥を落とす勢いで成長している同社だが、創業直後は経営危機に直面していた。特に塗装技術の要である「スピンドル塗装ライン」を導入するまでは毎期赤字で推移しており、資金繰りにも苦しんでいたという。
スピンドル塗装ラインとは、迅速・大量に塗装処理ができる設備で、塗装面の異物(ごみ、ほこり等)除去から塗料の塗布、乾燥までを一貫して実施することができる。藤井社長は創業以来、スピンドル塗装ラインの導入を目指して資金調達に取り組んでいたものの、成果は芳しくなかったと藤井社長は言う。
「スピンドル塗装ラインを導入するには8000万円もの資金が必要になるので、資金の大部分を金融機関からの借り入れで賄う予定にしていましたが、審査落ちが続くなど資金の確保には本当に苦しみました」
資金調達に苦慮するなか、ある日の面談で西田税理士が言った一言が、同社の運命を大きく変えることになる。
「懇意にしている信用金庫の職員さんが、今度エフジェイ真空さんの所在エリアに転勤してくるそうです。力になってくれるかもしれません」(西田税理士)
同職員の着任早々に面談の機会をセッティングした西田税理士は、藤井社長とともに同社が直面している現状を余すところなく説明した。自社のアピールポイントや課題、設備投資の目的はもちろん、資金の確保に苦労してきたこと、TKCの自計化システムを導入して自社で業績管理を行っていること、創業以来、経営計画を毎期策定し、月次ベースの予実管理を徹底していること――。
これらの説明に耳を傾けながら同社の業績資料に目を通し、おもむろに顔を上げると「高い塗装技術を持っておられるし、何より西田先生のサポートのもとで経営計画を創業から毎年策定し、月次の業績をきっちりと管理されている。黒字化に向けた社長の強い意欲も伝わってきました。力になりましょう」(同職員)と二つ返事で協力に応じた。
同職員が提案したのは、融資に加えて大阪産業局の助成事業を活用するというプラン。藤井社長は早速それぞれの申請に向けた準備に着手した。特に採択の鍵を握る設備導入後の利益計画は、すでに策定してある経営計画をベースに、西田税理士と同職員の助言を踏まえて練り上げた。
「助成事業は競争率が高く不採択の可能性も高い」(同職員)と聞かされていたものの、結果は見事採択。さらに、同時に進めていた融資の審査も無事通過し、念願だったスピンドル塗装ラインの導入にこぎつけた。
設備導入後の躍進は既述のとおりである。これまで手作業で行っていた工程を自動化したことで、生産効率が飛躍的に向上。さらに異物除去、塗装、乾燥といった工程を一貫して対応できる仕組みを確立したことで、顧客のニーズに柔軟に対応できるようになった。
以前とは見違えるような成長ぶりに、創業から苦楽をともにしてきた西田税理士は目を細める。
「事業が軌道に乗るまでは苦難の連続で、時には厳しい口調で耳の痛いことも言ってきました。今こうして生き生きと仕事に励む藤井社長の姿を見るたびに『当時の苦労が報われてよかった』とうれしく思っています」
最近は新たにレーザー加工機を導入し、塗装面への印字といったマーキング加工も手がけるなど、付加価値の拡大に余念がない藤井社長。これからも自社の技術に磨きをかけ、高品質な塗装製品を生み出していく。
左は絹川太朗監査担当
エフジェイ真空株式会社
業種:プラスチック製品の塗装・加飾
設立:2016年10月
所在地:大阪府八尾市高砂町3-3-66
売上高:1億2000万円
従業員数:8名
URL:https://fj-shinku.co.jp/